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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)7146号 判決

原告 国鉄動力車労働組合

被告 関川宰 外九名

主文

一  被告らは原告に対し、各自二九八六万四八五〇円及びこれに対する昭和五四年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

三  この判決は一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文一項と同旨

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

原告は、日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)の動力車に関係ある者約四万七〇〇〇名(昭和五三年当時)で組織する労働組合であり、その中央組織として中央本部があり、下部組織として全国に二九の地方本部及び二八三の支部などを設ける全国的な規模を有する単一組合である。

被告らは、いずれも原告の組合員であつた者であり、昭和五三年八月から同五四年三月二〇日までの間、国鉄千葉鉄道管理局内の原告の組合員をもつて組織される原告千葉地方本部(以下「千葉地本」という。)の、被告関川宰は執行委員長、同西森巖は執行副委員長、同中野洋は書記長、その余の被告らは執行委員であつた者である。

2  原告における組合費

(一) 組合員の組合費納入義務

原告の組合員は、原告の決議機関である大会又は中央委員会の決定に従つて組合費を納入する義務を負う。

(二) 組合費の納入手続

組合費は、地方本部が所属組合員から傘下支部を通じて徴収し、定期組合費については翌月末日までに、臨時組合費については定められた期日までに中央本部に納入しなければならない。

(三) 組合費の帰属

組合費は、支部が組合員から徴収するのと同時に原告に帰属する。

3  本件組合費の徴収

千葉地本は、傘下支部を通じて、所属組合員から、昭和五三年一二月分から昭和五四年二月分の組合費として各月分七七九万七八六〇円、また、中央委員会の決定に基づき昭和五三年年度末手当から臨時組合費として六三二万五九九〇円、以上合計二九八六万四八五〇円を徴収した(以下「本件組合費」という。)。

4  横領の共謀と実行

被告らは、本件組合費を共同して保管していたところ、共謀のうえ、昭和五四年三月二二日ころ開催した千葉地本執行委員会において、本件組合費を原告に納入せず後記新組合の結成準備資金に流用する方針を決定し、同月三〇日開催した千葉地本第三三回臨時大会と称する集会において、本件組合費を新組合の結成準備資金に充てるため同組合に無償譲渡することを千葉地本執行委員会名で共同して提案しその旨決議させ、引き続き、同日、国鉄千葉動力車労働組合(以下「動労千葉」という。)と称する新組合の結成大会を開催して、いずれも動労千葉の執行委員に就任するとともに、新組合結成準備資金(本件組合費)については、動労千葉の資金として運用することを動労千葉執行委員会名で共同して提案し、その旨決議させた。

5  損害

原告は、以上の被告らの横領行為により、本件組合費相当額の損害を被つた。

6  原告は被告らの右共同不法行為により被つた損害の賠償として、被告らに対し、各自二九八六万四八五〇円及びこれに対する不法行為の後である昭和五四年四月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1の事実中、原告が国鉄の動力車に関係ある者で組織する労働組合であり、中央本部、下部組織として全国に地方本部及び支部を有すること、被告らがいずれも原告の組合員であつた者であり、原告主張のとおりの千葉地本の役員であつたことは認める。原告が単一組合であることは否認する。千葉地本は、権利能力なき社団として原告の構成分子に止まらない独立した存在であり、原告から独立した組織活動、財政活動を行つてきた。

2  同2の(一)、(二)の各事実は認める。ただし、原告が労働組合本来の趣旨、目的からはずれて反労働者的組織化、特定党派化し、それを組合員、各級機関に強制するために組合民主主義を破棄し、少数派組合員、地方本部を暴力的、一方的に排除しているときは、少数派組合員の抵抗権として、当該組合員は組合費即時納入の義務の、当該地方本部は組合費の即時徴収、納入の義務の各履行責任を負わない。

同(三)の事実は否認する。

3  同3の事実は否認する。

4  同4の事実中、昭和五四年三月三〇日、千葉地本第三三回臨時大会が開催され、同大会において原告主張のとおり決議されたこと、同日、動労千葉の結成大会が開催され、同大会において、被告らが動労千葉の役員に就任し、また原告主張のとおり決議されたことは認める。その余は否認する。

5  同5の事実は否認する。

6  同6は争う。

7  被告らの主張

原告と千葉地本は、水本問題、貨物安定宣言、三里塚闘争等の諸課題とこれらを貫く組合民主主義をめぐり、遅くとも原告第三四回定期全国大会(昭和五三年七月三日から同月七日まで開催)以降対立状態に陥つていたところ、原告は、第一〇一回定期中央委員会(同年一一月一五日から同月一七日まで開催)において、千葉地本を敵対組織としたうえ、千葉地本三役、千葉地本青年部三役に対する査問委員会を設置することを決定して千葉地本を原告組合から組織的に排除することとし、そのため原告の全国組織としての統一性が千葉地本との関係で崩壊した。そこで千葉地本は、同月二七日に執行委員会を開催し、同委員会において、千葉地本を原告から分離、独立すること、これに伴い必要となる労働組合活動上の資金を確保するため、原告の組合費と同額の金員を各組合員から新組合結成準備資金として徴収することを決定し、同日開催された第五回支部代表者会議で同決定を確認したうえ、各支部において各支部組合員にこの旨周知徹底させた。更に、千葉地本は、昭和五四年三月三〇日、第三三回臨時大会を開催し、そこで原告が指導路線を自己批判し、これを改めるまでの間、新たな労働組合を結成することを代議員全員一致で決議確認し、同日、千葉地本所属組合員の総意をもつて動労千葉を結成した。

このように、第一〇一回定期中央委員会及びこれを受けた右地本執行委員会、支部代表者会議により、千葉地本は、原告から分離、独立し、団体脱退したが、仮に団体脱退が前記第三三回臨時大会をもつて成立するとしても、少なくとも右第一〇一回定期中央委員会とこれを受けた右執行委員会、支部代表者会議以降、千葉地本は新たに結成される動労千葉の設立準備過程にある独自の労働者の団結体として原告とは別個の組織へと転化したものである。したがつて、千葉地本の原告に対する組合費の徴収及び納入義務は昭和五三年一一月分をもつて消滅したのであり、同年一二月以降について、千葉地本は、原告に対して何らの義務を負うものではなく、原告主張の組合費を徴収した事実もない。

もつとも千葉地本は、昭和五三年一二月以降、原告主張の金額に近い金員を千葉地本所属の組合員から徴収したことはあるが、これは千葉地本が原告を脱退した以降、千葉地本(動労千葉)が形成したもので、その独自財産を構成するものである。

仮にそうでないとしても、右金員は、独自の労働者の団結体としての千葉地本が完全な権能を維持し、組合員の利益を守るために同地本が独立していくための組織整備、組織準備資金(その名目は「新組合結成準備資金」である。)として徴収したものであり、いずれにせよ原告がこれの返還を求める権利を有するものではない。

三  抗弁(過失相殺)

仮に千葉地本が本件組合費を徴収し、これに対して被告らに共謀による横領が成立するとしても、次のとおり、原告には右横領を誘発し損害の発生、拡大するについて過失があつたのであり、一〇〇パーセントの過失相殺がなされるべきであるから、被告らには有額の損害賠償義務は存在しない。

1  被告らの横領は、前記のとおり、原告が第一〇一回定期中央委員会で千葉地本を排除し、千葉地本に対する暴力的組織破壊の姿勢をとつていたため、これに誘発されたものであり、原告が被告らに対し原告に本件組合費を納入しないように仕向けたものである。

2  また、次のとおり、原告は、被告ら又は千葉地本に損害を与え、また被告らを含む千葉地本の組合員が動労千葉を結成したことにより利得している。

(一) 原告は、前記のとおり、千葉地本を組織排除する経過の中で、多数回にわたり故意に被告らの名誉を毀損するなどして、被告らに対し、多大な精神的苦痛を生ぜさせる不法行為をなし、その結果、被告らは、合計四三九九万二六二〇円の損害を被つた。

(二) 千葉地本所属の組合員らは、右第一〇一回定期中央委員会で千葉地本が原告から排除されてしまい、労働組合のない状態におかれたために組合員らの権利、利益を守るため、新組合(動労千葉)を結成する必要が生じ、かつ、原告の殺人的な暴力的組織破壊攻撃と対峙しながら新組合を結成しなければならなかつたため、動力車会館の防衛・機関紙(日刊動労千葉)の発行、暴力オルグ対策等のための費用を必要とした。

(三) 千葉地本所属の組合員約一四〇〇名は、動労千葉に結集したが、原告には、右組合員らの組合基金として、昭和五五年三月三一日現在で一九四二万八四九〇円が積み立てられているところ、これは実質的には、被告らが結成した動労千葉のものであるのに、原告は、これを被告ら動労千葉組合員から返還請求を受けることなく返還を免れ、実質的に取得したものである。

第三証拠〈省略〉

理由

一  原告は、国鉄の動力車に関係ある者で組織する労働組合であり、中央本部、下部組織として全国に地方本部及び支部を有すること、被告らはいずれも原告の組合員であつた者であり、千葉地本の、被告関川宰は執行委員長、同西森嚴は執行副委員長、同中野洋は書記長、その余の被告らは執行委員であつた者であること、原告の組合員は原告の決議機関である大会又は中央委員会の決定に従つて組合費を納入する義務を負うところ、組合費は、地方本部が傘下支部を通じて所属組合員から徴収し、定期組合費については翌月末日までに、臨時組合費については定められた期日までに中央本部に納入しなければならないこと、昭和五四年三月三〇日、千葉地本第三三回臨時大会が開催され、同大会において、本件組合費を動労千葉の結成準備資金に充てるため、同組合に無償譲渡することが決議されたこと、同日、動労千葉の結成大会が開催され、同大会において、被告らが動労千葉の役員に就任し、また新組合結成準備資金については動労千葉の資金として運用することが決議されたことは当事者間に争いがない。

二  右の当事者間に争いのない事実に、成立に争いのない甲第一、第二号証、第五号証の一、二、第六ないし第一〇号証、第一一号証の一ないし三、第一二、第一三号証、第一七号証の一ないし一七、乙第一、第七、第八号証、第九号証の一、二、第一〇、第一一号証、第一八号証の一ないし三、第二〇、第二四ないし第二六号証、第二九号証の三七ないし四〇、第三〇号証の一ないし二一、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一八号証の一ないし三、証人城石靖夫、同青木実蔵、同吉崎邦男、同片岡一博(ただし、後記措信しない部分を除く。)の各証言、被告水野正美、同西森嚴(右同)、同吉岡正明(右同)、同布施宇一(右同)、同関川宰(右同)、同中野洋(右同)の各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができ、証人片岡一博の証言並びに被告西森嚴、同吉岡正明、同布施宇一、同関川宰及び同中野洋の各本人尋問の結果中、右認定に反する部分はにわかに措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

1  原告の組織

原告は、国鉄の動力車に関係ある者のうち、定められた加入届を中央執行委員長に届出て、組合員名簿に登録された者を組合員として組織され(原告組合規約(甲第一号証)六条)、中央(上部)組織として中央本部を設け、その機関として最高決議機関である大会(同二一条、二六条)、大会に次ぐ決議機関である中央委員会(同二一条、二八条)並びに大会又は中央委員会の決議の執行及び緊急事項の処理等をその権能とする中央執行委員会(同二一条、三二条)を設けている。また原告は、下部組織として各鉄道管理局及びこれに準ずる範囲ごとに全国に二九の地方本部(同一四条、一六条)並びに機関区、電車区、気動車区、運転所、運転区及びその他動力車に関係ある業務機関ごとに二八三の支部(同一四条、一七条)を設けており、地方本部にはその機関としてそれぞれ原告中央本部の前記各機関に対応する地方本部大会、地方本部委員会、地方本部執行委員会を(同二二条)、支部には地方本部が決める機関を(同条)設けている。なお、原告では、地方本部及び支部の各級機関は、大会、中央委員会で決定された方針を実践しなければならず、これに反する決定は無効としている(同二五条)。

原告は、地方本部等の下部組織は原告組合規約に反しない限りにおいて自主的に規約を設けることができる(この場合中央本部に届出なければならない。)としている(同六一条)。千葉地本は、これに基づいて千葉地本規約(乙第一号証)を定め、これにより、国鉄千葉鉄道管理局内の動力車に関係し、かつ中央本部の定める組合員登録基準に該当する者のうち、定められた加入届を千葉地本執行委員長を通じて中央執行委員長に届出、組合員名簿に登録された者を組合員として組織され(千葉地本規約二条、五条)、機関として前記のとおりの地方本部大会、地方本部委員会、地方本部執行委員会を設け(同一八条)、支部に右に対応する支部大会、支部委員会、支部執行委員会を設ける(同一九条)などしている。

ところで、原告が右のような組織を構成したのは、原告は、右のとおり全国的な規模を有する単一組合であり、その組合員も昭和五三年当時約四万七〇〇〇名を有していたことから、中央本部が直接各組合員を統轄し内部的統制を保つことは事実上困難であるため、地方本部等の下部組織を設けて各組合員を下部組織を通じて統轄し、大会や中央委員会の決定に基づく中央執行委員会の指令、指示を全組合員に周知、徹底して意思統一をはかり、組合活動及び内部的統制を円滑にし、かつ実効あらしめることとしたことによるものである。したがつて、地方本部等が原告の下部組織としての性格上、上級組織である中央本部機関の統制に服すべきことは当然であり、前記のとおり、原告は、これを明らかにするため、その規約に、地方本部等の各級機関は、大会、中央委員会で決定された方針を実践しなければならず、これに反する決定は無効とする旨を定めている。

もつとも、地方本部も前記のとおり意思決定機関及び執行機関を有するのであるが、これは上級機関の決定事項及びこれに基づく指令、指示を円滑に実行するための具体的方法の決定及び執行を本来の任務、権限とするものであり、他に上級機関の決定がないとか、当該地方本部のみに関する地域特殊的な問題については自治権限が認められ、独自の判断で決定、執行することができるとともに、対応する鉄道管理局との間で労働協約や協定を締結することができるのであるが、このようにして地方本部が独自に決定し又は労働協約等を締結した場合には、中央執行委員会に報告をし、必要な場合にはその承認を得なければならないのであつて、結局、右の自治は、原告の規約及び上級機関の決定ないし指令、指示等に違背しない限度で認められるにすぎないのである。

2  被告ら

被告らは、もといずれも原告の組合員であり、昭和五三年八月二八日から同月三〇日まで開催の第三一回定期千葉地本大会において再選され千葉地本の前記争いのない各役員に就任した者であるが、その後、千葉地本執行委員会は、原告に対する反組織的行動を繰り返した等として、昭和五四年三月一、二日開催の第一〇二回定期中央委員会の決定に基づいて、同月二〇日、その執行権を停止され、また、同月三〇日開催の第一〇三回臨時中央委員会の決定により、被告関川及び同中野は除名、同西森、同水野及び同布施は組合員権利停止五年、その余の被告らは同三年の各統制処分を受けた。

3  組合費

(一)  組合員は、原告に対し、組合費を納入する義務を負う(原告組合規約一三条三号)。組合費は、定期組合費と臨時組合費とに大別され、定期組合費は大会においてその月額が決定されて毎月徴収されるが、臨時組合費は中央委員会が必要と認めたときにその決定に基づいて臨時に徴収される(同四六条)。組合費の徴収手続は、原告会計規則に定められ、これによれば、組合費は地方本部が所属組合員から徴収し、定期組合費については翌月末日までに、臨時組合費については定められた期日までに中央本部に納入しなければならない(会計規則三六条)。地方本部は、会計規則に基づき、細部について規則を設けることができる(同六〇条三項)。千葉地本は、これに基づいて会計取扱細則を設けており(会計取扱細則一条)、これによれば、組合費は支部が所属組合員から徴収して、千葉地本に対し、毎月末日までにその月の組合費を納入しなければならない(同四条)。なお、千葉地本はその傘下に一一の支部を有している。

(二)  千葉地本は、従前、右規約、規則、細則に従い、支部からその徴収にかかる組合費の納入を受ける方法により所属組合員から組合費を徴収し、これを中央本部に送金して納入していた。ところが、千葉地本は、組合運動方針等をめぐつて原告中央本部と次第に対立するようになり、昭和五三年七月三日から同月七日にかけて開催された原告第三四回定期全国大会などにおいてその対立を更に深め、千葉地本は、中央本部が戦闘的、階級的労働運動を放棄したとして、その指令、指示を無視し、これに違反する行動をとるなどした。このため中央本部は、同年一一月一五日から同月一七日にかけて開催された第一〇一回定期中央委員会において千葉地本三役(執行委員長、執行副委員長、書記長)らに対する査問委員会を設置するという事態に至り、両者は益々その対立を深めていつた。こうして千葉地本は、昭和五三年一一月分の組合費を中央本部に納入したのを最後に、千葉地本執行委員会を構成する被告ら全員一致の決定に基づき、同年一二月分以降の組合費については中央本部への納入を凍結することとし、同月分から昭和五四年二月分及び右第一〇一回定期中央委員会において臨時徴収することが決定された臨時組合費については、いずれも支部を通じて各組合員から徴収はしたものの、中央本部へは納入しなかつた。このように両者の対立が激化し深刻化する中で、前記のとおり、中央本部は、昭和五四年三月二〇日、千葉地本執行部全員の執行権を停止するに至り、その対立は決定的となつた。

他方、被告らは、右執行権停止を無視し、千葉地本執行委員会の名において、同月三〇日、千葉地本第三三回臨時大会を開催し、「現執行部のもと、一四〇〇名余の組合員により構成されている千葉地本が正当な動労千葉地方本部であることを確認しつつ、当面労働組合としての機能(団交権、協約・協定締結権、指令等)を堅持し、一四〇〇組合員の利益を守りぬくため、中央本部がいまの指導路線を自己批判し改めるまでの間、新組合を結成し対処することとします。新組合の名称は、国鉄千葉動力車労働組合(略称動労千葉)とします。動労千葉地方本部のもつ一切の財産、権能を国鉄千葉動力車労働組合に移譲することとします。一二月以降凍結してある組合費については、中央本部が自己批判すれば納入することとしますが、当面一部借入れの形をとり、新組合の結成準備資金にあてることとします。」等の案を全員共同して提案し、同大会においてその旨の決議を得た。次いで、被告らは、同日、右大会に引き続いて動労千葉の結成大会を開催し、動労千葉の執行委員長以下の執行委員会役員に選出され、同結成大会において、「新組合結成準備資金については、組合基金、第二闘争資金、闘争資金、役職員給資金、組織対策資金等として運用します。細部の取扱いは執行委員会に一任することとします。」との決議を得て、動労千葉執行委員会として本件組合費を動労千葉の組合基金などに充てて使用した。

(三)  本件組合費の徴収額

(1) 昭和五三年一一月当時の千葉地本の組合費納入組合員数は一四四一名であり、千葉地本が同月分として徴収した組合費の合計額は、七七九万七八六〇円であつた。

(2) 同年一二月以降昭和五四年二月の間の千葉地本の組合員数は、昭和五三年一一月当時と大差なく、原告における内部調査の結果によれば一四四一名を若干名上回つていた。そして右期間においても、千葉地本の組合員は、全員が原告の定める金額を毎月組合費(定期組合費)として支部を通じて千葉地本に納入しており、その各月分の合計額は、いずれも右一一月分を下回ることはなかつた。

なお、国鉄においては、新規採用者は、六箇月間準職員とされ、その後正規の職員となるため、四月に新規採用された者は正規の職員となる一一月以降に原告に加入することとなり、このため、原告の組合員数は、同月以降国鉄を定年等で退職する翌年三月までの間が多く、これに比べて四月以降一〇月までの間は若干少ないのが一般である。

(3) 前記認定にかかる千葉地本が徴収した臨時組合費とは次のようなものであつた。すなわち、原告は、前記第一〇一回定期中央委員会において、昭和五三年一二月一日現在の組合員から同年年末手当支払時に一人当たり闘争資金として平均三〇〇〇円、すなわち基本給額に応じて二九〇〇円、三〇〇〇円又は三一〇〇円及び総評臨時分担金他一三九〇円並びに乗務員関係の組合員から同様に乗務員賃金是正に伴う組合費として同年四月から七月までの四箇月間にわたり月額四〇円を臨時に徴収することを決定した。そこで、千葉地本は、右決定に従い、所属組合員全員から右決定にかかる金額を臨時組合費として徴収したというものである。

なお、千葉地本における同年五月一日現在の乗務員数は九〇八名であつた。

三  以上の争いのない事実及び認定した事実に基づいて考える。

1  原告は国鉄の動力車に関係のある者により組織される単一組織の労働組合であり、全国的規模を有しかつ昭和五三年当時約四万七〇〇〇名の組合員を擁したことから、組合活動及び内部統制を円滑にし実効あらしめるため、中央本部組織の下に地方本部や支部等の組織を設けたものである。したがつて、下部組織である地方本部等は、原告の規約や中央(上部)組織である中央本部の決定や指令、指示に反することはできない反面、積極的にこれを実施する義務を負うのである。

ところで、原告の組合員は、原告に対し、組合費を納入する義務を負うのであるが、原告は、その徴収、納入の便宜をはかり、かつその確実を期するため、規約において、組合費は地方本部が所属組合員から徴収しこれを中央本部に納入することと定めているのであるから、地方本部は、原告に対し、その旨の義務を負うのであり、地方本部が所属組合員から組合費の徴収を行うのは、原告内部における下部組織として原告(中央本部)のためにするものである反面、組合員としても、支部を通じて地方本部に組合費を納入することは、原告(中央本部)に対して納入することとなるのである。したがつて、組合費は、所属組合員から支部に徴収されると同時に原告に帰属するものである。

そうすると、千葉地本が所属組合員から徴収した本件組合費は、支部に納入された時点で原告に帰属したのであり、千葉地本は、これを原告中央本部に納入する義務を負つていたものである。

2  ところが被告らが執行委員会を構成する千葉地本は、原告と運動方針等を異にするとして対立し、本件組合費の中央本部への納入を凍結して行わず、原告に対する納入義務に違反したばかりか、被告らは、全員その執行権を停止された後であつたにもかかわらず、前記の千葉地本第三三回臨時大会を開催し、本件組合費を新組合(動労千葉)の結成準備金とする旨を執行委員会名で提案してその旨の決議を得、更に、動労千葉の結成大会において、その役員に就任したうえ、同結成大会の決議を得て本件組合費を動労千葉の資金として使用した。しかし、右臨時大会は、執行権を停止された者らにより召集が決定され、かつ、召集されたのであるから、千葉地本の有効な地方本部大会とは認められず、その決議は無効であるばかりか、本件組合費を原告とは別に新設される組合の結成準備資金とする旨の決定も、千葉地本には原告の財産をその承認なくして処分する権限はないのであるから無効である。それにもかかわらず、右のとおり、被告らは、全員の意思により、右のような臨時大会を開催して原告の本件組合費を違法に他に流用処分することを提案し、その旨の決議をさせて、原告に本件組合費相当額の損害を被らせたのであるが、このような被告らの行為は共同不法行為に当たるから、被告らは、原告に対し、本件組合費相当額を賠償する義務があるというべきである。

3  そこで被告らが原告に対し賠償すべき金額について考える。

昭和五三年一二月分から昭和五四年二月分における各月の定期組合費の合計額については、右各月における千葉地本の組合員が一四四一名を上回りその全員が組合費を納入したことからすると、いずれも昭和五三年一一月分の七七九万七八六〇円を下回ることはないものと認められ、そうすると、同年一二月分から昭和五四年二月分の定期組合費として千葉地本が所属組合員から徴収した金額の合計額は、少なくとも二三三九万三五八〇円である。

また、昭和五三年年末手当支払時に徴収された臨時組合費の額については、次のとおりである。すなわち、闘争資金については、基本給額に応じて三段階に区分され、千葉地本の組合員についての右各区分それぞれの具体的人数は明らかではないのであるが、右区分は、原告の組合員一人当たりの徴収額が平均三〇〇〇円となるようにしたものであるから、被告らにおいて格別の反証のない以上、千葉地本の組合員についても一人当たり平均三〇〇〇円徴収されたものと認めて差し支えなく、これに総評臨時分担金他一三九〇円を加算したものとしては、一人当たり平均四三九〇円徴収されたこととなる。そして、右徴収は、昭和五三年一二月一日現在の千葉地本の組合員からなされたものであるが、同日におけるその人数は、右のとおり、一四四一名以上であるから、その徴収合計額は、少なくとも六三二万五九九〇円である。

次いで、乗務員賃金是正に伴う組合費については、昭和五三年五月一日現在の千葉地本の組合員中の乗務員数は九〇八名であるから、格別の反証のない以上、この人数をもつて同年四月から七月までの間における右乗務員数と認めて差し支えなく、そうすると、乗務員賃金是正に伴う組合費は、九〇八名から月額四〇円を四箇月分徴収したこととなるのであつて、その合計額は一四万五二八〇円である。

以上のとおりであるから、本件組合費は、総額二九八六万四八五〇円を下回ることはない。そうすると、被告らは、原告に対し、共同不法行為に基づく損害賠償として、各自右金員及びこれに対する遅延損害金を賠償しなければならない。

四  被告らは、千葉地本は昭和五三年一一月二七日原告から組織的に分離し独立したとか、あるいは原告とは別個の組織へ転化したと主張し、これを前提として、同年一二月以降千葉地本の組合員から徴収した金員は動労千葉の財産として徴収したものであるか、そうでなくとも動労千葉の組合結成準備資金として徴収したものであつて、原告組合の組合費として徴収したものではないと主張するが、証人片岡一博、被告水野正美、同西森巖、同吉岡正明、同布施宇一、同関川宰、同中野洋各本人の供述中右主張に沿う部分は、前認定のように昭和五四年三月三〇日の千葉地本臨時大会に被告ら自身が「一二月以降凍結してある組合費については、中央本部が自己批判すれば納入することとしますが、当面一部借入れの形をとり、新組合の結成準備資金にあてることとします。」と提案した事実に照らすと、信用することができず、他に右主張を肯認するに足りる証拠はない。

五  過失相殺の主張について

被告らは、被告らが共謀により本件組合費を横領したのであるとしても、原告には中央委員会で千葉地本を排除するような決定をして、右横領を誘発し、損害が発生し又は拡大するについて過失があつたから過失相殺がなされるべきである旨主張する。

しかしながら、前記認定した事実によれば、本件共同不法行為は原告と千葉地本とが運動方針をめぐつて対立し、これが昂じて被告らが中心となつて新組合を結成する過程において被告らが行つたものであるが、被告らが原告の過失として主張する事実は、被告らが原告からの組織上の分裂を決定した理由として主張することは格別、組合費横領という故意による違法行為を敢行した理由として、横領による損害額を算定する上で、これを被害者の過失として斟酌すべき事情には当たらないというべきである。

また、被告らは、原告は被告ら又は千葉地本に損害を与え、また被告らを含む千葉地本の組合員が動労千葉を結成したことにより利得しているとして種々の事実を主張するのであるが、右主張の事実はいずれも被告らが本件共同不法行為を行うことにより原告に損害を発生せしめ又は拡大させるについて原告の過失を構成する事実とは認められないから、右主張の事実はその存否について判断するまでもなく過失相殺の主張として失当である。

よつて、被告らの過失相殺の主張は理由がない。

六  結論

以上のとおりであるから、被告らは、原告に対し、共同不法行為による損害賠償として、各自二九八六万四八五〇円及びこれに対する不法行為の後である昭和五四年四月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるというべきである。

よつて本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項ただし書を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 白石悦穂 遠山廣直 納谷肇)

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